別に、気付くつもりも無かったのだが、

それに気が付いてしまったら後戻りなんて出来なくて、

それを手放す事も考えられず、

どうにも出来ない自分がそこにいる。





当たり前の日常







 気怠い目覚め。カーテンは引いてあるが、真昼の強い日差しには何の役にもたちやしない。目覚める度に遮光カーテンを買おうと思うのだが、買いに行くのが面倒くさくて、そのままになっている。
 ゆっくりと起き上がり大きく欠伸をすると、昨夜のアルコールがまだ燻っていた。昨夜、では無く、今朝が正解なのだが。
 寝ぼけ頭で耳を澄ますと、台所から聞こえてくる音。
 それから、いい匂い。
 朝は決まってお粥にスープ。サラダ、フルーツ、カフェオレ。
 いつの間にか、起きる時間に合わせて用意されている。
 昼に起きる人間の為に、昼に朝のメニューを用意しているらしいが、本人の朝御飯はどうしているのか聞いたことが無かった。
 そのうち、思い出した時にでも聞こう。
 起き上がり、洗面所で顔を洗う頃には目も覚める。
 台所に顔を出すと、いつもの笑顔が迎えてくれる。
「おはよう御座います、悟浄。座って、ご飯食べて下さいね」
「おう」
 椅子に座るとカフェオレが出る。
 それに口を付けると、新聞が出る。
 それを読んでいると、食事が並んでいる。
 そして口に運ぶモノは、最高に美味しいのだ。
「ん、美味いぜ」
「ありがとうございます♪」
 絶やさない笑顔。ふと、こいつが来る前の自分の生活を思い出す。
 だらりと起きて、シャワーを浴びて、外見決めて、外食生活。
 まあそれも悪くは無かったが、この生活が続くと思い出せなくなる事に気付く。
 起きて食事が用意されているなど、生まれて初めてだったと思う。
 食事を作ってくれた女がいなかった訳では無いが、やはり此処まで気の利く人間と言うのは、あまりいないのだろう。
 ちょっと口うるさい時もあるが、それでも良い拾いモノをしたと思わずにはいられない。
「あれ、悟浄。タマゴ嫌いでした?卵焼き、一口も食べてませんけど」
「いや、嫌いじゃねーけど。卵焼きってぼそぼそしてしょっぱいだろ?あんま好きじゃねーの」
 いつもは食卓に並ばないタマゴメニュー。そう言えば、昨日どっかのおばさんにタマゴを貰ったと言っていた。この同居人は、いつの間にか俺でさえも知らない近所の住人と親しくなって、色々なモノを分けて貰うのが得意なのだった。
「これは美味しい卵焼きですよ。一口食べてみて下さい」
 はい、と箸で一切れ掴んで目の前に差し出された。くるりと巻かれた綺麗な卵焼き。まだほのかに湯気の立つそれを、口にする。
 ふわり。
 とろり。
「どうです?美味しいでしょう?」
 記憶にある卵焼きは、ぼそぼそで、しょっからくて、冷たくて。
 なのに口の中で広がる味は、ふわふわタマゴの柔らかさと、とろりと溶ける半熟加減と、甘くないのにほんのり甘めな、優しい味だった。
「美味い。お前やっぱ良い嫁さんになるわ」
「あはははは」
 暖かい食事に、優しい味。当たり前の笑顔が最近手に入れたモノだと気付く。そして、それを手放せなくなっている自分がそこにいる。
 幼い頃、与えられなかった当たり前の愛情が、今此処に、不釣り合いに存在する。
「・・・あー、そういやさ。遮光カーテン買ってきてくんね?」
「駄目ですよ、ますます遅くまで寝るようになっちゃいますから」
「ふーん・・・そうか。そう言われればそうだよな」
 まあ、仕事(?)が遅いのだから朝が遅いのは仕方がない。実際、余計な事をして帰らなければ、これ以上遅く起きる必要も無いのだ。
 まあいいか、と思った瞬間。笑顔が言うのだ。
「でも、寝苦しいなら買いに行きましょうか?他に買いたいものもありますし」
「それって荷物持ち?」
「はい♪」
 気が付けば、不自由だった生活用品が少しずつ揃えられていく。
 誰かの買い物に付き合ってやるなんて面倒くさい事。それが生活用品ならなおの事。
 だが、笑顔が俺にそう言うのだから仕方が無い。
「わかったよ、お付き合いさせて頂きます」




手放せ無いのは、笑顔か食事か愛情か。

気が付けば、失いたくない自分がいた。




END.



私の考える「当たり前の日常」とは、無くす事の出来ない、無くしてしまった時が怖いモノ。平々凡々な話ばかりを書く私ですが、それが当たり前だからこそ、大切なモノだと思って何時も話を書いてます。
今回の話は、龍庵様からあるイベント(バレバレ)で、卵焼きを「あ〜んv」で食べさせて貰った事から思い付きました。
驚いたのはその卵焼きでした。私の作る卵焼きは砂糖で甘いやつ何ですが、龍庵様の卵焼きは塩で味付け、なのに美味しかったのです!!びっくりしました。塩で味付けした卵焼きはしょっからいだけだと思ってたのに、すごく美味しいんですもの!!思わず龍庵様に言った私の台詞が「良いお嫁さんになる」だったのです。そんな訳で、このお話は龍庵様に捧げます。とても短いですが、やっぱりこの長さが一番書きやすいと実感。ついでに初58ですか?まだくっついて無いんですが、既に操られている悟浄が素敵v(いや、うちの八戒さん無意識なんですが) 




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