アナタしかミエナイ   前編



 朝起きると、変な格好で寝ていた。
 別に変と言っても、不自然な体制で寝ていたと言うだけであって、着ていた服を脱がされて代わりにパンダの着ぐるみを着させられていた、とか言う訳では無い。
 いつもは横向きか、それとも普通に仰向けに寝る癖が付いているのだが。
 何故か起きるとうつ伏せに寝ていた。しかも寝返りがうてない。
 寝ぼけ頭で腕を動かそうとすると、後ろ手に手錠を掛けられていた。
 それに気付いた次点で、三蔵はまだ寝ぼけていた。取りあえず、外れる訳もない手錠から手を抜こうと、力の入らない手をカチャカチャと動かす。
「・・・何で・・・取れねえんだ・・・?」
 くどいようだが、寝ぼけていた。
 しばらくそうやっていたが、面倒臭くなって諦めた。そしてぼんやりと、何故こんな事になっているのか考える。
 昨日の自分の行動はいつも通り。
 ジープに乗って移動中、刺客に襲われそいつらを全滅させた。それは間違いなく全員殺った。
 それから運良く街に出て、宿ではツインが二つ取れたのでくじ引きで部屋割り、運良く八戒と同室になった。
 そのまま宿で夕食を取り、風呂に入って、八戒から寝酒をもらって・・・・・。
 そこから記憶が無い。そんなに強い酒では無かった。むしろ比較的飲みやすい、さっぱりしたものだった筈だ。つまり、そこから考えられる事は一つ。
「あの野郎!!一服盛りやがったな!!」
 三蔵は一気に覚醒し起き上がろうとしたが、当然失敗に終わった。仕方なく、せめてゴロリと仰向けになり、腹筋だけで上体をおこす。
「くそっ・・・八戒の奴・・・何のつもりだ・・・?」
 八戒だから油断した。しかし、油断してはならないのも八戒だと言う事を忘れていた。
 八戒が、真っ赤な液体を二つのグラスに注ぐ。一つに口を付けて、
「美味しいですよ」と言ってもう一つのグラスを手渡された。
「数の少ない地酒らしくて、一本しか手に入らなかったんです。悟浄と悟空には内緒にしましょうね」
 にっこりと笑っていたのを覚えてる。
 間違いなく、グラスに何か入っていたのだ。
 身体の調子が別段おかしい訳では無いので、恐らく睡眠薬のようなものだったと思われる。
「・・・・何かした・・・か・・・?」
 八戒を怒らせるような事をしただろうかと、一応謙虚に考える。普段の自分の素行が悪い事位は、ちゃんと自覚しているらしい。
 八戒自身には何もしていない筈だ。細かい我が儘が蓄積していって爆発!・・・する位なら、当の昔に爆発しているだろう。
 では河童か?八戒が自分の事以外で怒る理由はこいつ以外に考えられない。
 三蔵にとってはどうでもいい事なのだが、八戒は悟浄の、いわゆる恋人と言う奴なのだ。
 しかも八戒の方から惚れ込んで悟浄を落としたと言うのだから。
 あの身持ちの堅い八戒が、軽薄を絵に描いたような悟浄を・・・。
 三蔵はもし自分が相談役にされていなかったら、俄には信じられなかった。
 しかし、今はそんな事はどうでもいい。何故八戒がこんな事をしたのか、だ。
 エロガッパにはいつも通り、怒鳴って発砲しただけだ。これも理由としては弱い。
 大体、手錠だけ、と言う中途半端さが気になる。動きを封じたいなら、もっとがんじがらめにされているか、それとも身体の自由を奪う痺れ薬のようなものを使った方が効果的だ。
 何にせよ、当の八戒が姿を現さないのでは、考えても始まらない。
 窓から見える太陽の位置はいつもより高いものの、それ程遅い時間ではない。恐らくまだ朝食時。八戒がここにいないのは、メシを食いに行っているに違いない。
 三蔵はふと、「メシ」から連想される人物を思いだした。
 あの、すがるような目つきで覗き込まれたら、誰も逆らえない大きな金の瞳。
(まさか・・・奴のせいか・・・?)
 まさかな。と三蔵が自分の考えを否定した瞬間だった。
「おはよう、さんぞーー!!!」
 扉が壊れんばかりの勢いで開く。
 たった今思い浮かべていた人物が、食事のトレーを抱えて飛び込んで来た。
 その出で立ちが語る真実は一つ。わざわざ自分(恐らく自分の)用の食事をここまで運んで来たと言う事は、悟空が一枚咬んでいる、又は、悟空が首謀者と言う事だ。
「てめえ・・八戒はどうした!!」
「八戒なら昨日買い忘れたものがあるからって、悟浄連れて買い物行った」
 あっさりと答えた悟空の態度に、三蔵はこっちが主犯だと確信した。
「悟空」
「何?」
 チャリ・・・と後ろ手に鎖を鳴らす。
「これは何のマネだ・・・?」
「ああ、それ?八戒に頼んで付けてもらった♪」
 ブチ、と三蔵のどこかで何かが切れる音がした。
「ふざけんなーー!!!さっさと外しやがれ、この馬鹿猿っっっ!!!」
「やだよ。外したら三蔵大人しく世話させてくれないじゃん!」
 それに鍵は八戒が持ってるし。
 えへん!と何時になく強気な態度で三蔵と向かい合う。いつもなら、後が怖いから絶対に三蔵の言う事を素直に聞くのに。
「・・・誰の・・世話だと・・・?」
「三蔵の」
「何で俺が世話されにゃならん!!」
「だって三蔵、世話させてくれるって約束したじゃん!!」
「何時誰がそんな約束し・・・・!?」
 した・・・ような気がする。何となくだが、何時だったかそんな事を言ったような気がして、三蔵はぴたりと怒鳴るのを止めた。
「・・・三蔵・・・今日何の日か分かる・・・?」
「は?・・・今日って・・・・・・・・・!!!!」
「思い出した?」
 完全に思い出した。 
 それは3ヶ月ほど前のある日の出来事だった。
 悟空が、巣から落ちてしまった小鳥を拾ってきたのだ。
 幸いその小鳥は落ちて間もない時で、種類からして故意に親鳥が落としたのでは無いと判断して、三蔵は悟空に小鳥を巣に戻すように言い付けた。
 悟空はその小鳥をどうしても自分で育ててみたかったらしく、散々渋っていたが、三蔵が鳥の生態を詳しく言い聞かせると、残念そうだが納得して小鳥を巣に戻した。
 鳥は人間のもとで育てると自分でエサが取れなくなり、野生に帰れなくなる。つまりは、自分と同じ種族と生きられないと言う事だ。
 親も、兄弟もすぐそこにいるのに、わざわざ引き離す事は無いだろう。
 と、そんな事を言って聞かせたのを覚えている。
 小鳥を巣に帰した後も、しばらく猿の愚痴が続いて・・・自分は何時も誰かに世話をされているから、自分も何かの世話をしたかったのだと駄々をこねる猿と言い争いになって。
 売り言葉に買い言葉。いや、勢いに押されたと言うべきか。
 猿に生き物の世話が出来るわけがない、と言った言葉に相当腹が立ったらしく、絶対に出来ると豪語してきた。
 じゃあやってみろと言ってしまったのが後の祭り。なら三蔵の世話をする!!と言った猿に身の危険を感じたが時既に遅く、軽々と身体を持ち上げられてベッドの上に押しつけられていた。
 それは執務中の出来事で、焦って藻掻いてなんとか止めさせようとした時に持ち出した交換条件が、例の約束だったのだ。
「誕生日プレゼントに世話をさせてやるから・・!!」
 まさか、そんな3ヶ月も前の話を覚えているとは思わなかった。たとえ覚えていたとしても、その日一日だけは、色々と理由を付けて私室から一歩も出なければいい。問題は誰かに見られなければいいのだ。
・・・と考えていたのだ。寺院にいたあの頃は・・・!!
 所が、それから少しして旅に出る事になってしまった。バタバタと忙しい日々が続き、約束の事もすっかり忘れ、そして今に至る訳だ。
 三蔵は、約束を忘れていた自分を後悔した。少なくとも覚えていれば、もっと早くに先手を打って、別のプレゼントで手を打たせたのに。
 しかし後悔してももう遅い。結局既に八戒にはばれてしまっているのだ。ならば悟浄も知ってしまっているだろう。
 悟空への誕生日プレゼントが、「自分の世話を焼かせる」と言う訳の分からないものである事を。
「・・・・おまえの誕生日・・・か」
「うん、ずっと前からの約束!プレゼントくれるんだったよな、三蔵vvv」
 幸せそうに悟空が三蔵の側に来る。こぼさないように上手くバランスを取って、ベッドの端にちょこんと座る。
 結局自分はこの笑顔に弱いのだ。情けないが自覚症状は十分ある。
 もうばれているのだから仕方が無い。寺院の私室が宿の一室に変わっただけだ、と三蔵は腹を括った。
「ほら、さっさとそれ食わせろ。てめえが世話しねえと餓死するだろうが」
「うん!どれから食べたい?」
「お粥」
「はい、三蔵あーんして♪」
 言い方は気にくわないが、心底腹が減って来ていたので大人しく食べる。
 お粥はほんの少し冷めてしまっていたが、味は申し分無く美味しかった。
「美味しい?八戒が誕生日だからって、厨房借りて作ってくれたんだ」
 なるほど。八戒らしい、自分の得意分野を生かしたプレゼントだ。
「次よこせ」
「うん♪」
 三蔵が、自分の手ずから御飯を食べる仕草がとても可愛らしくて、悟空は幸せを噛みしめる。
 いくら約束をしたからって、三蔵は少しでも嫌な奴相手じゃ絶対にこんな事はさせてくれないから。
 最初は後が怖いかな?と思ったけど、約束を思い出して、たとえ約束でも自分の為に大人しく世話をさせてくれる三蔵に、愛情を感じずにはいられない。
(愛されてるよな・・俺って♪)
 一年に一度の大切な日。三蔵に出会った大切な日。
 世間一般の誕生日と、悟空の誕生日はちょっと違うけれど。
 大切な日に、大切な人から、最高のプレゼントを貰えるなんて。
 にやけまくる悟空を前に、手錠を掛けられた自分の情けない格好に、ふと冷静になりそうになって食事に集中する。
 変だと思ったが最後。きっと自分は逃げ出したくなるに違いない。
 ウキウキとスプーンを差し出す悟空。差し出されたそれを、素直に口に運ぶ三蔵。
 三蔵がどう思っていたとしても、その姿は「愛する人の誕生日に自分自身をプレゼントする」と言う荒行をこなしてしまった、最強のバカップルなのであった。







前編終了。後編からは前編に輪を掛けた馬鹿エロに突入。下品ネタに耐えられない方は、ここで引き返す事を切実にお進めします。
しかし・・・表小説の二人とは別人なバカップルっぷりですな!!でもこっちの方が断然書きやすかったり!!怒鳴ってる時の三蔵が一番書きやすいし!!アイター!!





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