自分記念日 綺麗と言う事。 「なあ、八戒の右目って本当に見えないのか?」 ゆったりとソファに腰掛けて本を読んでいると、右の耳から唐突にそんな声が聞こえてきた。 隣の部屋で昼寝をしていた筈の悟空が、いつの間にかソファの後ろから覗き込んでいる。 「ええ、見えませんけど・・・どうかしましたか?」 声のする方向に少しだけ首を捻る。 そんな事をしても自分の真横にいる悟空の顔は、少ない左目だけの視界では捕らえられないが。 「・・・こんな綺麗なのに、見えないなんて勿体ないよな・・」 悟空の中では、まだ悔しさが拭いきれていない。 あの時、自分がもう少し早く八戒の元にたどり着いていれば。八戒が失明する事は無かったんじゃないかと、無駄だと分かっていても考えてしまうのだ。 「別に大した事じゃありませんよ♪」 まるで他人事のような台詞。でも、これも本心なのだから仕方がない。 自虐的だとか、無気力だとか。 そんな風に思われても仕方がないけど、そうでは無くて、別に後悔する事が無いから。 あの時の自分の行動も、それによって出た結果も。 「片目でも不自由ではありませんから」 隣の悟空の顔も見えてないクセに、さらりとそんな事を言う。 「でも・・・・」 悟空はまだ納得がいかないらしい。 一応、身体だけは人より丈夫に育ち、五体満足な悟空から見れば、たとえ本人が「大丈夫」とか「大した事無い」と言っていたとしても、どうしても気にしてしまうのだ。 まして、それを言っているのは、八戒なのである。 八戒は、何があっても悟空には「大丈夫」と言うのだ。 出会った当初は八戒の笑顔を、そのまま笑顔としてしか受け止めていなかったが。 それでもだんだんと、八戒の笑顔の裏にある表情が、最近では分かるようになってきた。 八戒の「大丈夫」は、意外と信用出来ない事も。 黙り込んでしまった悟空が気になって、八戒は悟空の頭の上にぽんと手を置いた。 悟空は、八戒の視界が狭い事にいまいち気が付いてないせいか、こういうポジションで八戒の側にいる事が時々ある。 喋っているときは別に問題無いのだが、顔の見えていない八戒には、黙り込まれるとやはり不安になってしまう。 悟空の表情が気になって、つい、ぽふぽふと頭に触れた。 「・・・悟空は、綺麗って言葉の意味、分かりますか?」 「え?・・・わ・・かるけど・・???」 「僕は昔、綺麗って事が、よく分からなかったんです・・・」 綺麗。 それだけじゃ無くて、他にも。 何もかも、生きることに無関心で、よく分からなかった。 孤児院の庭に咲いている花を綺麗だと誰かが言った時、素直に頷く事が出来なかった。 花が咲いている。 花びらには色がついている。 花は水と光と養分があれば育つ。 誰かが綺麗と言った「花」には、そんな認識しか無かったから。 初めて何かを綺麗だと思ったのは、大きくなった彼女に出会ってから。 綺麗だけじゃなく、他にも。 彼女から、色々な事を学び取る。 風になびく長い髪は綺麗。 ころころと笑う、屈託のない笑顔は綺麗。 柔らかい、でも意志の強そうな瞳は綺麗。 それから、自分の手は綺麗。 彼女に言われて、初めて自分の手が「綺麗」だと認識した。 自分の事になど、なんの興味も湧かなかったのに。 彼女が綺麗だと。彼女が好きだと言うのなら。 この手を大切にしようと思った。 たとえどんなに血色に染まろうとも、足がもがれて首を切られたとしても。 彼女の好きな「手」が残れば、それで良いと思った。 「悟空は、僕の目が綺麗だと思ってくれますか?」 「うん!八戒の目ってすんげえ綺麗!初めて見たときからずっと言ってんじゃん!」 あの時彼は「綺麗」だと言った。 真剣な眼差しで、自分の認識を変えさせる。 緊迫した空気の中でぼんやりと、自分の目が「綺麗」だと言う事に、初めて気が付いた。 「綺麗だから、見えなくてもいいんですよ・・・」 機能など、使えなくてもどうでもいい。 彼が「綺麗」だと言ってくれたこの瞳が。 そこに在ればそれでいい。 「・・・・よく分かんねー・・・・」 「あははは。潰れて無くて良かったって事です。さすがに格好悪いですからねえ♪」 貴方が「綺麗」と言ってくれたから。 初めて大切だと、そう思えた。 呼ばれると言う事。 「・・っかい、はっかい・・・・八戒ってば!!」 「え?・・ああ、済みません。まだ聞き慣れないもので・・・」 猪八戒。最近とある事情で貰った新しい名前。 自分の名前を呼ぶ人も少ないせいか、この名前になってから暫く経っているのに、まだ耳に馴染んでいないようだ。 『悟能』 自分の耳には、そう呼ぶ彼女の声がまだ新しい。 朝から家に遊びに来ていた悟空が、なかなか返事をしなかった自分に向かって、ふくれっ面を見せていた。 「それじゃダメじゃん!」 「え?何がですか?」 「自分の名前はちゃんと言えるようにしねえとダメなんだぞ」 「いえ・・・別に自分の名前は言えますが・・・」 ちなみに漢字でも書けますよ、と近くにあった紙にすらすらと書いて見せた。 どうやら悟空には「戒」の字が読めなかったらしく、紙に向かってますます顔を膨らませる。 「でも、聞き慣れないんだろ?」 「ええまあ・・。呼んでくれる人もいませんから」 同居人の悟浄は、確かに自分を名前で呼ぶが。 如何せん、夜型の彼(職業ギャンブラー)とは生活リズムが違いすぎて、同じ家の中にいても顔を合わせる事はあまりない。 せいぜい夕飯の時(悟浄には朝食だ)に一緒に食事を取る程度である。 「じゃあさっ。聞き慣れるまで俺が呼んでやるよ♪」 「は?」 「はっかいはっいかはっかいはっかいはっかい・・・・・・・・」 目の前で、呪文のように繰り返す名前。 時々息継ぎで止まったりするが、本当に名前を呼び続けている。 そのまま八戒が本を読み出しても、かまわず悟空は呼び続けた。 名前を呼んでも振り向いてくれないのは淋しすぎる。 いくら自分が八戒の名前を覚えても、当の八戒自身が名前を覚えていなければなんの意味も無い。 「・・・・・悟空、もういいですよ」 「はっか・・ぜーぜー、も・・もう馴れた?」 「いえ。うるさかったものですから♪」 そう言って読みかけの本に再び目を落とす。 すっかり息が上がっている悟空は、一瞬あっけに取られてしまう。 だが次の瞬間、大きく息を吸い込んだ。 「ひでーよ八戒ーー!!!!」 「あはは!冗談ですよ、冗談ー♪」 短時間で、何十回、何百回と繰り返された言葉。 きっともう。 『はっかい』と聞こえたら、自分じゃ無くても振り向いてしまいそう。 END. あわわわわ。おわわわわわ。ど・・・どうでした?(びくびく) 八戒さん、乙女モード全快でスマンです。 結構ノリノリで書き出した割には難産で、へんてこな文章なのはそのせいっス〜!!! しかし・・・93より甘い・・・・・・。(でも爽やかだよね?) |
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